乱れ雲 東宝(昭和42年:1967)
監督
 成瀬巳喜男  

出演
 司葉子
 加山雄三
 森光子
 加藤大介
 草笛光子
 浜美枝
 この映画『乱れ雲』は、成瀬巳喜男監督の遺作となった作品である。
 通産省官僚江田の妻由美子(司葉子さん)は、夫が米国派遣の辞令を受け、また自身は妊娠していることを知ったばかりだった。だが江田は、国会答弁の資料作成のために出張した箱根で、明治貿易に勤務する三島史郎(加山雄三)が運転する車がパンクしたことによって起こした交通事故で死んでしまう。
 上司が止めるの聞かず、三島は江田の葬儀に参列するのだが、そこで江田の父親から叱責され、由美子からは激しい憎悪の視線を浴びせられるのであった。裁判所によって、交通事故は不可抗力によるものとして無罪と判決されるのだが、三島は同義的責任から由美子に対して毎月の給与の一部を支払うことを申しでる。由美子はその申し出を断るのだが、由美子の姉文子(草笛光子さん)が由美子が受け取れるように纏めてくれるのであった。

 三島は、常務の娘(浜美枝さん)と婚約もしていたのだが、それも解消させられ青森の事務所に転勤させられてしまう。一方、由美子は何とか女一人で東京で生きていこうとして不動産やレストランで働くのだったが、十和田湖で旅館を営む青森の実家の義姉勝子(森光子さん)から戻ってきて旅館の仕事を手伝って欲しいと頼まれ、結局はそれを受け入れて実家に戻ることにする。実家に戻る途中、青森の事務所の三島を訪ね、「お金をいただいているといつまでも過去に縛られているような気がする」と言って、三島からの送金を断るのであるが、このことが三島をさらに苦しめるのであった。

 こうして、三島と由美子の間には何の関係も無くなったように見えたのであるが、十和田湖の旅館の女将さん達の集まりが行われたホテルで二人は偶然にも再会してしまい、そこでひどく酔った由美子に「もう二度と会わないような、どっか遠いところに行ってしまって!」と言われてしまうのである。そのため、三島は転勤を会社に願い出て、それを伝えに由美子の旅館を訪れ、「あなたは、僕が苦しむのをどっかで喜んでいるのだ」と言って詰るのであった。そして後日、三島が忘れたライターを届けにいった由美子には、三島への憎しみも消えていたのである。

 西パキスタンのラ・ホールへの転勤が決まった三島は、青森の思い出に十和田湖を観光しようとバスに乗るとそこにはたまたま由美子も乗っていて一緒に十和田湖を観光するのであるが、そこで風邪をこじらせ高熱を発してしまい、湖畔近くの旅館で由美子は徹夜で三島を看病するのであった。いよいよ、ラ・ホールへ旅立つことが決まった三島は、再び由美子を訪ねて愛を告白するのであるが、由美子は三島の愛を素直には受け入れることができないのである。

 三島がラ・ホールへ立つために青森を離れるその日、三島の下宿を訪ねる由美子の姿があり、そして愛を確認するために二人は旅館へとタクシーで向かうのであるが、その途中で交通事故を目撃してしまう。旅館に着いた二人が愛を確かめようとしたとき、救急車のサイレンが鳴り、交通事故で怪我をした夫とそれにすがる妻の姿を見た由美子と三島は、二人が結ばれても決して幸福にはなれないことを悟るのであった。そして、別れを受け入れなければならないと決意した三島が、「この歌を聴いた人は、みんな幸せになれるという言い伝えがあるんです」と言って由美子のために歌う津軽民謡が哀しく響くのであった。

 現在が過去の集積の結果であるならば、未来もまた過去と現在から逃れることはできないのであろう。別々の道を歩くことを決めたこの二人には、何が待っているのだろうかと思わずにはいられない。三島が望んだように由美子が幸福になり、また三島にも幸福な未来が来ることを我々も望むのであろうが、その思いも雲のようにはかなく乱れ流れていくような気がしてしまうのである。この映画でも、成瀬巳喜男監督の演出が冴え渡り、それに答えた司葉子さんと加山雄三の、特に次第に惹かれあっていく演技が素晴らしい。それにしても、この時代の女優さんの美しさと気品は、最近の子供じみた女優さんには求めても求められないものであることを痛感してしまうのである。監督も、俳優も”大人”の時代だったのであろうか。

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