監督
市川崑
音楽
芥川也寸志
武満徹
出演
石原裕次郎
田中絹代
森雅之
浅丘るり子
ハナ肇 |
いわゆる”アクションスター”として絶大な人気を誇り、”日本人が一番愛した男”とも評された石原裕次郎が主演した映画である。私事であるが、むかしカラオケバーみたいなところで裕次郎の持ち歌を下手に歌っていたら、その筋の人らしい雰囲気の人が「以前裕次郎に会ったことがあるが、なんともいいやつだった」というように話しかけれられて、握手を求められたことがある。
渡哲也がニューフェースとして初めて裕次郎に日活食堂で会ったとき、他のスターと違ってわざわざ立ち上がって渡に握手し、「頑張ってくださいね」と言ってくれて、自分も同じように若い俳優に接したいと思ったというようなことをどこかに書いている。このようなエピソードからも石原裕次郎の人柄が分かるし、小生の勝手な思い込みかも知れないが、彼の映画の共演者にいわゆるいぶし銀のような名優達が顔を揃えることが多いような気がしている。この映画でも、大女優の田中絹代さん、名優森雅之が、両親役で出演している。
石原裕次郎といえばアクションスターということになるが、記憶に残っている作品は必ずしもアクション物ではなく、いわゆる”文芸もの”といえる作品のほうが記憶に残っている。例えば、『乳母車』、『陽のあたる坂道
』、『山と谷と雲』、『あじさいの歌』、『あいつと私』、『憎いあんちくしょう』、『若い人』などであり、また『幕末太陽伝』も忘れがたい作品である。
さてこの映画『太平洋ひとりぼっち』も、当然のことであるがアクション映画ではなく、マーメイド号と名づけられた小さなヨットで太平洋横断に成功し、1962年8月12日にアメリカのサンフランシスコに入港した当時24歳の堀江謙一青年の冒険の物語である。映画は、密出国からアメリカ到着までに起きる様々な出来事と、その合間に回想する出発までの準備や、両親等との葛藤などが描かれている。
洋上で起きる様々な出来事は、決して悲壮感を持って描かれているわけではなく、ユーモアを含んで描かれているが、たぶんこの偉大な冒険を成し遂げた堀江謙一氏も、決して悲壮感でこの冒険に挑んだわけではなく、楽観的な気分を持っていたのであろう。そうでなければ、このような冒険などできるはずがないではないか。映画を見ていると、この冒険が如何に入念に計画されたかもわかるような気もするのである。例えば、映画の回想シーンにおいて、ヨットに持ち込む品物のリストが延々と映し出され、裕次郎の明るい声のナレーションが被さるのだが、これを見ただけでもありとあらゆる状況が想定され、それへの対処を考えていたことが伺えるし、一人の人間ですら生きていくのにこんなにも多くの物が必要になるのかと思ったものである。
当然ながらヨットはシケや台風にも遭遇する。そのシーンは特撮であろうがなかなか迫力があり、月並みな表現しかいえないが、波風に翻弄される木の葉のようなヨットが、実に頼りなくちっぽけな存在に見えたりもするのである。さて、この映画を忘れがたいものとしているシーンは、映画の最後でヨットによる太平洋横断という快挙を成し遂げた堀江謙一を演じる石原裕次郎がサンフランシスコのホテルでバスにつかっているところであり、このシーンを記憶の中からときどき思い出すことすらあるほど印象深いものである。実はあまり感想が一致しない映画評論家の佐藤忠雄氏もこのことについて述べており(「日本映画300」
(朝日文庫) )、ちょっと意外な感じがしたものである。 なお、音楽が芥川也寸志と武満徹であり、すばらしい効果を与えていることも付言しておきたい。
石原裕次郎の演技や大阪弁については、いろいろ批判的な意見も多いようであるが、裕次郎の映画として私的には楽しめた映画であり、このような冒険を考え、実行できる人物をうらやましく思ったりしたものである。大望をいだく若い人には是非ともご覧いただきたい作品である。
以下に他の方の感想があります。
 

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