日本のいちばん長い日 東宝(昭和42年:1967)
監督
 岡本喜八

撮影
 山田一夫

音楽
 佐藤勝

出演
 三船敏郎
 志村喬
 宮口精二
 笠智衆
 山村聡
 高橋悦史
 黒沢年男
 中丸忠雄
 島田正吾
 加藤武
 伊藤雄之助
 児玉清
 加東大介
 小林桂樹
 田崎潤
 平田昭彦
 天本英世
 佐藤允
 加山雄三
 藤田進
 神山繁
 新珠三千代
 松本幸四郎
 東宝が創立35周年を記念し、昭和20年の敗戦から、22年後の高度経済成長期の真っ只中の昭和42年の8月に公開した、2時間37分の超大作 映画である。映画のほとんどは、昭和20年8月14日から翌15日のほぼ一日における出来事が、ドキュメンタリータッチで描かれている。

 映画の冒頭において、昭和20年7月26日に米英中国よって日本に通告されたポツダム宣言の放送が傍受される。政府は、このポツダム宣言に対する日本の対応を議論するが、結論が容易に決まらなかった。そして、その間に広島、長崎に原爆が投下され、和平の仲裁を依頼していたソ連が日本に宣戦を布告するなど事態が悪化し、遂に天皇陛下の御聖断を仰ぐことになった。そして、8月14日の午前10時40分から開かれた御前会議において、天皇が以下のように述べられて、ご聖断が下された。

 「・・・・ しかし、私自身はいかようになろうとも 国民を 国民にこれ以上苦痛をなめさせることは 私には忍び得ない できることはなんでもする 私が直接 国民に呼びかけるのがよければ マイクの前にも立つ ・・・・・」

 しかし、このご聖断に対して、国体護持と、そのための戦争継続を唱える一部の青年将校や、学生を主体とする横浜警備隊が反乱を起こし、天皇陛下の玉音放送を阻止しようとするのであった。こうして、翌15日正午の玉音放送までの24時間という「日本のいちばん長い日」は始まったのである。

 岡本喜八監督は、この映画において、見事なドキュメンタリー・タッチでこの緊迫の一日を描き出し、2時間37分を些かの弛みもなく、息もつかせぬ緊張を保って見せてくれる。玉音放送をめぐって、この一日の間に実に様々な出来事が発生するのだが、その詳細を述べても意味は無く、叛乱を起こそうとした青年将校達も含め、それぞれが自分なりに、国を想い、国民を想い、国体を想って行動した人たちと、その人達のそれぞれの主張を映画に中に見出し、耳を傾ければよいのであろう。そして、自分がもし同じ状況に置かれたならば、どのように考え、どのように判断し、どのように行動したのだろうかと自問すればよいのではないだろうか。

 なお、このような状況にあっても、依然として戦争が継続していたため、玉音放送の録音が行われている間にも、日本の各地から特攻機が出撃していたが、このように日本の国内外を問わず、この映画の中に描写されたこと以外にも、実に様々なことが進行していたはずである。

 さて玉音放送は無事に行われ、その後も少しの混乱はあったが、日本は降伏し、独立を失った。映画『日本誕生』で描かれたような神話の世界を持つ日本が誕生してから、実に二千数百年の歴史を持った日本が一度死んだのである。そして、1951年9月8日のサンフランシスコにおいて講和条約が署名され、その効力発生の1952年4月28日に日本は独立を果たすことができた。現在では、日本が独立国家ではなかった時期があったことすら知らない人が少ないないようであるが、この独立後の目覚しい復興によって、つい最近までは、世界第二位の経済大国となった。しかしこの日本は、敗戦によって、戦前の価値観のほとんど失ってしまったようでもある。

 歴史にイフ(if)はないとは、よく言われることであるが、もし万が一にも、戦争継続を唱えた青年将校たちの叛乱が成功し、映画の中で、阿南陸軍大臣、大西海軍軍令部次長、そして青年将校が主張したような本土決戦が行われた後に、ポツダム宣言とは異なった条件で戦争を終結できていたなら、嘗ての日本の価値観のほとんど全てを否定し失ってしまったような現在の日本にはならなかったのかもしれない。もちろん最悪の場合、日本全体が焦土と化し、日本という国家が存在しなくなり、辛うじて生き残った日本民族が塗炭の苦しみをなめる可能性は大きかったであろうが。

 この映画において、三船敏郎演ずる阿南陸軍大臣が、「一死以テ大罪ヲ謝シ奉ル 昭和二十年八月十四日夜 陸軍大臣 阿南惟幾神州不滅ヲ確信シツツ」という遺書を残して自決する長い場面がある。また、最後に皇居前の広場において、叛乱を起こし畑中少佐や椎崎中佐も遺書を残して自決している。この映画の登場人物達が美化されすぎているという批評があるが、こうした彼らの覚悟の前には、虚しい批評のように思われるのである。ちなみに、終戦とともに自決した軍人や軍属とその家族は、568柱になるということである。

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