日本沈没 東宝(昭和48年:1973)
監督
 森谷司郎

脚本
 橋本忍

出演
 藤岡弘
 小林桂樹
 丹波哲郎
 いしだあゆみ
 二谷英明
 中丸忠雄
 島田正吾
 映画『日本沈没』は、地球規模の地殻変動によって、タイトル通り日本が海に沈没するというショッキングな内容であり封切りと同時に見たのだが、今でもなんとなく記憶に残っているシーンがある。日本の政治・経済の黒幕とされている渡老人が、日本沈没という難局に立ち向かっている山本総理に対して、日本民族の将来を研究させた学者達が”日本民族にとっては、何もしないほうがいい”と言っていると伝えた場面である。”そうなのだ、日本民族は、沈没する日本国土と運命をともにしたほうがいいのだ!”と、そのとき妙に納得したのである。

 この映画は、日本列島が地殻変動によって物理的に無くなり、日本民族が世界に四散し、放浪することになるまでが描かれている。ところで今の日本の置かれた状況をみると、そう遠くない将来、経済的・軍事的に台頭する中国によって侵略され、チベットやウィグル、あるいは南モンゴルのように自治区化されるかもしれないという危惧をぬぐいきれないのである。映画とは異なる意味で、日本民族がその寄辺となる国土を失うかも知れないのであるが、国民の多くは多無関心であるように思えてならないのである。

 映画は、地球物理学者の田所博士(小林桂樹)が、小野寺(藤岡弘)が操艦する深海調査艇によって、小笠原諸島の一つの無人島が沈んだ原因を探るところから始まる。この調査から、世界最大の日本海溝の海底において大規模な乱泥流が発生しており、何かが起こりかけていることがわかった。

 このことは、直ぐにときの山本総理(丹波哲郎)に報告され、直ぐに政府は極秘に調査を開始しようとするのであった。直後、天城山がなんの前触れもなく大噴火を始めたため、山本は学者達を集め意見を求め、田所博士は日本海溝を徹底的に調査することを提案する。蛇足だが、当時の地球物理学の権威であった竹内均東大教授が映画の中で、地球の構造を解説しており、勉強になったものである。そしてこのことは、また政財界に隠然たる影響力を持つ渡老人(島田正吾)にも伝えられるだった。

 まもなく田所博士の研究所に3人の男達が現れる。一人は内閣調査室の邦枝(中丸忠雄)、もう一人は情報科学者の中田(二谷英明)であり、そして山本総理の秘書の三村であり、政府が極秘に進めようとしているD計画なるものへの協力を田所博士に要請する。まさにその最中に、霧島火山帯の海底火山が大噴火を起こすのである。
 D計画は、データ収集のための観測機器を日本海溝に沿って設置するものであり、小野寺達の懸命な作業によって急ピッチで進められ、金華山沖までの調査が行われる。そして、それまでの調査結果を総括した田所博士は、太平洋のマントルの流れが急激に変わりつつあり、”最悪の場合、日本列島の大部分が海に沈んでしまう”という衝撃的な予測を行う。この言葉が終わるか終わらないうちに、関東地方を大規模な地震が襲い、政府の懸命な対策にもかかわらず、死者・行方不明者が360万という未曾有の大災害を日本にもたらすのであった。

 東京を襲った地震により、D計画はD1とD2と変更される。D1計画はそれまでの調査を継続し、D2計画は、沈み行く日本から国民を退避させるための計画である。そしてこのD2計画に基づいて、各国に日本民族を移民として受け入れてくれるように交渉する特使が派遣される。
 D計画の本部において、D1計画によって集められたデータを用いてシミュレーションが行われ、地殻変動が始まるまでわずか10カ月であることが分かり、日本民族の退避実行委員会が構成される。しかし、日本政府の発表より早く、アメリカの測地学会が「日本が沈む」と発表する。この衝撃的なニュースは全世界を駆け巡り、国際社会においても、国連を中心として日本を救うための活動が本格化する。
 日本民族は日本列島からの脱出を開始した。しかし、日本民族を受け入れてくれる国は、なかなか増えなかった。1億1千万という人口は、あまりにも膨大過ぎるのである。そして、さらに悲劇が襲う。日本沈没が早まったのである。日本政府の懸命の努力にもかかわらず、大半の日本人が国土と運命を共にした。沈み行く日本から脱出できたのは3400万人であり、国土を失ない流浪する日本民族の苦難の歴史が始まったのである。

 この映画は、単なるパニック映画ではない。原作者の小松左京が、いかなる理由であれ日本が国土を失った場合の日本民族の将来に思いを馳せた壮大な問いかけでもある。例えば、渡老人が”日本民族の将来”を研究させた学者達は、ケース別に分けた以下の三つの案を提案する。

 ・日本民族の一部が、どこかで新しい国をつくるため

 ・世界各地に分散し、その国に帰化するため

 ・どこの国にも入れられない人のため

 この三つのために政府や国民が何をなすべきかは、映画の中では具体的に示されていないが、たぶん我々に突きつけられた課題なのであろう。

 東京を襲った大地震の後で、山本総理が以下のようなことを述べる。これも政治を行う者にとって意味のある言葉である。

「日本人は平均的にみて、みんな賢くなりすぎた。誰か、とんでもない大バカ者がいてだ、東京は地震で全滅するとキチガイみたいになって喚きたていたら、金にはならんし、選挙の票にもならんけれど、少なくとも360万もの人間が死なずにすんだことは間違いない」

 この映画は、国家・国民を守るための政治家の心構えとすべき言葉が他にも数多く散見される。政治家とは、国家・国民のためにありとあらゆる場合を考慮して対策を講じておかなければならないのだろうが、期待できそうな政治家は少ないないように思われるのである。政治家も、そして政治家を選ぶ国民も、心してこの映画を見なければならないであろう。

 以下に他の方の感想があります。