波の塔 松竹(昭和35年:1960)
監督
 中村登

音楽
 鏑木創

出演
 有馬稲子
 津川雅彦
 桑野みゆき
 南原宏治
 映画『波の塔』の原作は松本清張であるが、推理小説というよりは、恋愛映画というべきである。映画化されたのは本作品のみであるが、TVでは繰り返しドラマ化されている。映画化やTVドラマ化に於いてこの作品が成功するかどうかは、何と言っても主人公である結城頼子を演じる女優さんの魅力に依存するであろう。この映画では、有馬稲子さんが結城頼子を演じているが、TVドラマでも以下のような女優さんが結城頼子を演じているのである。

 1961年−池内淳子さん
 1964年−村松映子さん
 1970年−桜町弘子さん
 1973年−加賀まりこさん
 1983年−佐久間良子さん
 1991年−池上希実子さん
 2006年−麻生祐未さん
 2012年−羽田美智子さん

  残念ながらTVドラマのほうはどの作品も見ていないので、それぞれの女優さんがどのような結城頼子を演じたのかは想像するだけであるが、これらのTVドラマの中で見たいと思うのは、私的には、池内淳子さん、桜町弘子さん、そして佐久間良子さんの演ずる結城頼子であろうか。

 この映画は、政界の汚職を追求している東京地検の若手検事小野木(津川雅彦)が、汚職に関与している政治ブローカの妻・結城頼子(有馬稲子さん)とたまたま演劇の会場で隣り合わせになったことから知り合い、不倫の関係になってしまったために生じた悲劇である。

 この映画のようなストーリーが成立するためには、検事の小野木が自分の職、即ち自分の人生を賭してまで不倫の愛を貫くことの必然性を見る側に納得させる必要がある。そのためには、不倫相手の頼子がそれだけの魅力を備えている必要があり、本作品で頼子を演じた有馬稲子さんは、まさに十分すぎるほどに美しく魅力的であり、小野木が自分の約束された将来を捨ててしまうことが納得できるのである。あえて言えば、有馬稲子さんの大人のしっとりとした美しさを見るだけでも、この映画の価値があるとさえ思えるほどである。

 この映画で結城頼子が最初に登場してくるシーンは、深大寺である。ここで、小野木と武蔵野の面影が残る林を二人で歩くとき、こんな会話が交わされる。

 小野木 「もうずいぶん付き合っているのに、僕は貴方のことを何にもしらないんだ」
 頼子  「私は結城頼子よ。あなたは、頼子という私を信じてくださればいい。私という女だけを見つめて下ればよろしい。あたしの家族のこと、私の係累の一切、そんなものは知る必要がありませんは」

 そしてその夜、タクシーで小野木が頼子を送っていくのだが、道が行き止まりになってしった後で頼子が呟く。

 「どこにもいけない道ってあるのね。道があるからどっか行けるかとおもったけど」

 そう、二人は運命のいたずらから”どこにも行けない道”に迷い込んでしまったのである。検事である小野木が捜査対象としたのは、政治ブローカである頼子の夫・結城(南原宏治)が関与していた汚職事件であった。検察は頼子の夫を汚職容疑で起訴するのだが、結城の弁護士によって小野木と頼子の不倫関係を暴露され、そのため小野木はこの捜査から外され、休職となり、将来への希望も閉ざされてしまうのであった。

 辞表を提出した小野木は、誰も知らないところで頼子との二人だけの生活を望み、東京を離れようとして東京駅で落ち合うことにするが、頼子は現われない。そして一人、富士に向かった頼子は小野木宛に以下のような手紙をしたため、樹海に分け入るのであった。 

「貴方が待っていらっしゃる東京駅へ何度駆けつけていこうとおもったかしら。
それを思いとどまった頼子の苦しい気持ちは、申し上げないでもわかって下さるでしょう。
私が東京駅へ行けば、その瞬間からあなたの将来が消えてしまう。
あなたは、あなたの道を未来に向かって真っ直ぐにお進みにならなければいけない。
お約束を破ったことは、どうぞ、頼子の最後の愛と思ってください。
あなたのことを思い、頼子は一人で参ります。どこへもいけない道」

 この頼子の手紙から、頼子が深く小野木を愛していたことがわかり、またそれ故に小野木もまた頼子を愛し、自分の将来さえ捨てたことが理解されるのである。

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