監督
成瀬巳喜男
出演
田中絹代
山田五十鈴
高峰秀子
杉村春子
栗島すみ子
岡田茉莉子 |
嘗ては、このような内容が映画として作られる時代があったのである。現在では、このような映画を製作するということすら考えられないことであろうし、また仮にある製作者がこの原作(幸田文)を映画にしたいと考え、資金が準備できたとしても、まずこの映画を作ることは不可能であろう。理由は簡単である。こうした映画を作り得る監督がほとんどいないし、それに加えて重要なことは、この映画の出演者のような女優さん達が現在の日本ではどこを探しても見当たらないのである。
この映画の出演者の顔ぶれを見て、これがどんなに凄いものであるかと思える人は、たぶんご年配の方やよほどの映画通の方であろう。なにしろ、田中絹代さん、そして山田五十鈴さんと杉村春子さんという文化勲章受賞のお二人(ただし、杉村春子さんは辞退)、さらにこの3人を圧倒する存在感を示す栗島すみ子さん、そして高峰秀子さん、岡田茉莉子さんという豪華さである。成瀬巳喜男監督は、これだけの女優陣を一部の隙もなく配して、それぞれの演技者としての個性を十分に引き出し、そして成瀬監督の期待に応じた各女優さんが静かながら火花をちらすような競演を見せてくれるのである。
この映画は、芸者置屋「つたの家」に、女中として田中絹代さん演ずる梨花が来るところから始まり、そして女中梨花が「つたの家」から去ろうと決意するところまでが描かれている。
女中梨花が働くことになった「つたの家」は、つた奴(山田五十鈴さん)が切り盛りしているのだが、時代の変化についていけず、また人が好いため、既に家まで借金の抵当に入ってしまっていたのである。つた奴は、この困難を乗り切って芸者置屋を続けるために、嘗てのお姐さん芸者であり今は料理屋を経営しているお浜(栗島すみ子さん)を頼るのだが、・・・・。
最後は、お浜に呼ばれてある提案を受けた梨花がそれを断り、田舎に帰ることを決意して「つたの家」に戻ってくると、そこには、お浜を信頼し再起に希望を持ったつた奴と、「つたの家」で芸者をしている染香(杉村春子さん)とがいるところで終わる。この二人は、将来への微かな希望を抱きながら三味線の共演をしていたのだが、梨花はただ無言で二人の共演を見つめることしかできないのであった。
この映画は、芸者置屋「つたの家」の運命を、日常の生活の中に坦々と描いているだけであり、クライマックスとでもいえるものほとんどないのだが、”人生の非情の悲しさ”(予告編テロップから)を表現して余りあるものであろう。名作である。
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