監督
増村保造
出演
市川雷蔵
加藤大介
小川真由美 |
映画のタイトルから始まり、クレジット・タイトルが続いていくが、その背景に、当時の新聞記事が、勇壮な音楽と共に次々と映される。例えば、”日支両軍交戦”、”海軍機、南京を大空襲”、”大上海茲に陥落す”、”南京を完全占領”、”日独伊・防共協定成立す”、等々である。これらの新聞記事から、緊迫した当時の状況がよく理解される。
昭和13年10月、三好次郎(市川雷蔵)は陸軍予備士官学校を卒業し陸軍少尉に任官する。次郎には、丸の内のイギリス人の経営する商社にタイピストとして勤務している布引雪子(小川真由美)という婚約者がいて、前途は約束されていた。しかし次郎は、所属する連隊で、参謀本部の草薙中佐(加藤大介)と名乗る男の訪問を受ける。草薙中佐は、次郎の資質を試すかのように次々と変わった質問を浴びせてきた。そしてこの中佐に会ったことが、次郎の運命を大きく変えることになるのである。1週間後、三好は陸軍省に出頭せよとの機密の命令を受けた。
次郎が陸軍省に行くと、三好をはじめ18人の若い陸軍少尉が、靖国神社近くの木造のバラックに集められていたのである。そして彼らの前に現れたた草薙は、この18人の少尉たちに向かって、「本日、諸君を集めたのは、1年間、スパイとして教育するためだ」と打ち明けるのである。草薙はさらに述べるのだ。「諸君には、名前も、洋々たる前途も捨てて欲しい。優秀なスパイ一人は、2万人の兵力に匹敵する。将来、日本が栄えるのも、滅びるのも、諸君の肩にかかっている」と。こうして、厳しい訓練が始まり、18名の選ばれた元少尉は、剣道や柔道の武術、自動車や航空機の基本的な技術、射撃、電信を習い、そして政治・経済・外交問題の研究に日夜励むのである。
しばらくして、三好(改め椎名)次郎達18名は、九段から中野電信隊跡に移動し、本格的なスパイ教育が始まった。例えば、破壊工作、殺人、情報蒐集、暗号、金庫破りなどの技術である。一方、次郎からの音信が途絶えた雪子は、次郎が所属した連隊を始め、陸軍省を訪ね歩いていたが、次郎の行方を突き止めることができなかったため、参謀本部にタイピストとして勤務して、次郎を探すことにしたのである。
過酷な訓練で二名の脱落者を出しながらも1 年間の訓練を終えようとする次郎達に、卒業試験として、実際のスパイ活動が課されることになり、次郎は他の二名と一緒になって、イギリス領事館から暗号コードブックを盗み出すという課題を与えられた。仲間の一人が、領事館の中国人コックを買収し、洋服屋に成りすました次郎は、領事館の暗号係のダビットソンに接近する。そして、領事達が旅行に行っているときに、コックの手引きで領事館に侵入し、コードブックの撮影に成功する。しかし、コードブックの内容はすぐに変更されてしまった。参謀本部に勤務した雪子が、前に勤めていたイギリスの商事商会の社長のラルフに騙されて、イギリスのスパイとして働いていたのである。
次郎は、参謀本部から情報が漏れたのではないかと疑り、参謀本部を訪れると、そこでタイプストとして働いている雪子の姿を見出すのである。雪子が参謀本部にいることを不審に思った次郎は、雪子の後を付けて、雪子が英国諜報機関の手先として働いていることを突き止める。このことを草柳に報告すると、草柳は、「憲兵によって処刑されるのであれば、お前の手で、殺してやれ!」と告げるのである。そして次郎は、雪子のアパートを訪ね、ホテルに誘うのであった。こうして卒業試験の課題を果たした16人は、無事に中野学校を卒業した。そして、彼らはそれぞれの任地に赴く。その中に、北京に赴く椎名次郎の姿があったのである。
以上が、『陸軍中野学校』のおおよそのストーリーである。この学校を卒業した方によると、この映画の内容は、かなり実際の中野学校の教育内容を反映しているようであるが、後に具体的な活動がシリーズ化され、本作を含めて5本の映画が作られた。虚無の影を帯びた眠狂四郎を演じた市川雷蔵は、本作でも、中野学校のため、そして国家のために非情な生き方に徹しようとする椎名三郎陸軍少尉を見事に演じている。特に、愛していながらも、イギリスのスパイとなってしまった雪子を自らの手で毒殺し、北京に出発する前日の夜、中野学校の庭で雪子の手帳を、一枚ずつ燃やす雷蔵の背中には、これからスパイとして生きなければならない男の決意と悲しみが滲んでいるように感じられたのである。この映画および後のシリーズは、日本版007として、敵のスパイとの諜報戦を描き、今見ても十分な面白さをもった映画である。
以下に他の方の感想があります。
 

 |




.jpg)
.jpg)
.jpg)
.jpg)
.jpg)
.jpg)
.jpg)
.jpg)

.jpg)
.jpg)
|