監督
山崎徳次郎
撮影
姫田真佐久
音楽
山本直純
出演
赤木圭一郎
芦川いずみ
葉山良二
吉永小百合
西村晃
天路圭子 |
映画『霧笛が俺を呼んでいる』は、赤木圭一郎扮する二等航海士の杉敬一が、横浜港の埠頭に停泊している客船すずらん丸から下りてくるところから始まる。すずらん丸が、エンジンの故障で出航を一週間延期することになったのである。そのため杉は、この間に嘗ての親友である浜崎(葉山良二)を訪ねてみようとするのだが、浜崎は既に半年前に防波堤の傍で自殺しているのを発見されたというのであった。
しかし、浜崎の恋人だった美也子(芦川いずみさん)や、手術のために入院していた浜崎の妹ゆき子(吉永小百合さん)の話から、杉には浜崎が自殺したとは信じられず、なんとか浜崎を捜そうとするのである。そしてついに浜崎と再会するのだが、そこには一緒に海への夢と憧れを語りあった嘗ての浜崎の姿はなく、金のために麻薬の密売人となってしまった浜崎を見出すだけだった。杉は、浜崎に自首を勧めるのだが、浜崎はそれを受け入れず逃亡しようとして麻薬密売組織のチンピラと打ち合いとなり、そして浜崎の死という結末となってしまうのである。
そしてすずらん丸が出航する横浜埠頭には、別れを告げる杉と見送る美也子の姿があった。杉は、今回の出航によりしばらく日本を離れて、ケープタウンで友人と働くことを美也子に告げるのであった。
この映画は、わずか21歳で自動車事故で亡くなったため、よく知られているように「和製ジェームス・ディーン」と言われた赤木圭一郎の代表作といえるであろう。ただしここで代表作という意味は名作という意味ではなく、”俳優赤木圭一郎を語る上で欠かすことができない”という意味で用いており、当時の数多く作られたプログラム・ピクチャーといわれる作品群の中では、たぶん標準的な作品(しかし、最近作られる映画よりは格段にすぐれている)であろう。ところでこの作品は、仄聞するところによると、キャロル・リード監督の映画史に残る名作『第三の男』を下敷きにしているとのことであるが、脚本のうまさかなのか、見直してみたときにはそのことに気がつかなかった。しかしたとえこの映画が『第三の男』をベースとしていようと、紛れも無く”赤木圭一郎という銀幕のスター”の主演映画なのである。
上記の最後の場面で、霧の埠頭で杉と美也子は次のような言葉を交わす。
杉:「めまぐるしい数日で、悲しいことも多かったけど、あなたと一緒で楽しいこともありました。最初の霧の晩、ホテルの窓辺で貴女とお会いしたときの霧笛がいまでも耳に残っています。」
(美弥子は、何か言いかけるが・・・)
美也子:「さよなら」
杉:「ごきげよう」
(杉は、少し足早に船に去っていく)
そして霧笛が響き、すずらん丸のスクリューが回り、赤木圭一郎が歌う主題歌「霧笛が俺を呼んでいる」が見送る美也子の姿に被さるように流れてきて、杉の出航を霧の中で見送る病院のゆき子が映し出されるのである。これぞ、当時の日活映画なのであり、多くの観客がこのムードに酔いしれていたはずである。
赤木圭一郎は、この後に遺作となった『紅の拳銃』を含む5本の作品に出演して、わずか21歳でゴーカートの事故で亡くなった。従って、この映画に主演したときは21才なのであるが、大人びた不思議な雰囲気を漂わせており、現在の俳優達とはかなり印象が異なるように思われるのである。いわゆる”華”ということなのであろう。もし不幸な事故が無ければ、間違いなく大スターに成長し、裕次郎がそうだったように、いわゆる文芸作品もの(裕次郎の場合でいえば、「乳母車」、「あじさいの歌」、「陽のあたる坂道」等々を私的には文芸作品ものと呼んでいる)にも出演して、裕次郎がそうだったように佳作、名作を残してくれていたように思われるのである。
ところでこの映画では、上品で清楚な雰囲気から大ファンであった芦川いずみさんがキャバレー歌手とて出演し、素晴らしい歌声を披露してくれている貴重なシーンもある。この歌が芦川さん自身によるものかどうかという疑問を呈する向きもあるが、芦川いずみさんの芸暦をみると松竹音楽舞踏学校に3年間ほど在籍していたことから、ご自身の歌声であろうと推測している。また、浜崎の妹役を演じている吉永小百合さんはまだデビューまもない16歳で、実に初々しい姿を見ることができる。吉永小百合さんのファンにサユリストなる言葉が付けられ、いまでも多くのサユリストがいるということもうなずけるのである。なお、当時の多くの映画がそうであったように、小百合さんや芦川いずみさんの使う言葉が美しく、隔世の感を抱いてしまうのであり、このような美しい言葉を使用する女性を、今では期待することもできないことに一抹の寂しさを感じてしまうのである。
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