宮本武蔵 第三部 二刀流開眼 東映(昭和38年:1963)
監督
 内田吐夢

出演
 中村錦之助
 薄田研二
 高倉健 
 入江若葉
 江原真二郎
 平幹二郎
 第三部では、柳生流への兆戦と二刀流の開眼、佐々木小次郎の登場、そして吉岡清十郎との決闘等が描かれる。本作品の見所の一つは、前半の柳生流との戦いである。般若坂の決闘を制した武蔵(中村錦之助)は、柳生流の太宗柳生石舟斎(薄田研二)に教えを請うため柳生の庄を訪ねるが、柳生流では他流試合を禁じていた。そのため、如何にして石舟斎に会うかということになるが、これを解決するのが芍薬の切り口なのである。

後に武蔵と対決することになる吉岡伝七郎(平幹二朗)も石舟斎との試合を望むが、それを断るために、柳生家に世話になっていたお通さん(入江若葉さん)が、吉岡伝七郎の宿に石舟斎が自ら刀で切った芍薬を携えて使わされる。実は武蔵も同じ宿に滞在しており、見ている側としては”武蔵、お通さんの声に気がつかないのか?!”と内心思ってしまうのではある。

 それはさておき、伝七郎はその切り口に興味を覚えることもなく、芍薬をお通さんに持ち帰らせるのだが、この芍薬が宿の少女を経て武蔵の手にもたらさる。武蔵は一見してその切り口の非凡さを感じ、これを理由として柳生四高弟と会うことになるのである。こうした物語の展開は、剣を求める武蔵の姿勢とあいまって非常に面白い。結局武蔵はこの高弟4人と剣を交えることになるが、このとき思わず知らずに二刀を構えている。これが二刀流の開眼である。

 二刀を構えて立ち会っているときに、いずこからともなく聞こえてくる笛の音が、それがお通さんのものであることを知って心乱れた武蔵は、とっさに闇の中に逃げて夜明けを待つ。しかし、夜が明けて石舟斎の庵を見つけ、鄙びた門に「使事君ヨ怪シムヲ休メヨ 山上門ヲ閉ズルヲ好ムヲ 此山長物無シ 唯野ニ清鶯ノ有ルノミ」と書かれているのを読んで、石舟斎が既に名利名聞を捨てていることを悟ることになるというほぼ原作通りの演出であるが、このことから我々は武蔵の一段の精神的な成長を知ることになる。

 ところで、2003年にNHK大河ドラマとして放送された「MUSASHI」では、なんと石舟斎(藤田まこと)と武蔵が立会うという設定になっていたと記憶するが、原作を無視し、原作に描かれている武蔵の精神性を貶めること甚だしいものであった。

 本作品で石舟斎を演じた薄田研二は、東映時代劇においてなくてはならない名脇役で、多くは悪役を演ずることが多いが、石舟斎はこの人をおいて考えられないように思われる。原作では、石舟斎を「鶴のような老人である。もう八十歳にかかっているが、品位は年と共について、高士の風をそなえているし、・・・」と表現されており、まさに薄田研二演ずる石舟斎そのもではないか。

 本作において佐々木小次郎(高倉健)が登場するのが船上であり、いかにも颯爽としたイメージのある佐々木小次郎に適っているように思える。佐々木小次郎もこれまでにも多くの役者によって演じられているが、高倉健の佐々木小次郎もなかなか雰囲気を出しており、実際の佐々木小次郎はこんな人物だったのかと思われてしまう。

 最後は、蓮台寺野における吉岡清十郎(江原真二郎)との果し合いであるが、武蔵は清十郎を一撃で倒す。般若坂の決闘では、数十人の牢人を相手にダイナミックな戦いが繰り広げられるが、清十郎との決闘では一瞬で倒すことにより、武蔵の強さがより強く印象付けられるのである。

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