素晴らしき哉、人生! アメリカ(1946)
監督
 フ ランク・キャプラ

[出演]
 ジェームズ・ スチュアート
 ドナ・リード
 映画『素晴らしきかな、人生!』は、人のために誠実に生きるということがどんなに素晴らしいことかということを高らかに歌い上げた、アカデミー監督賞を三回受賞したフランク・キャプラの名作である。映画の背景となる時代は、第二次世界大戦の前後である。アメリカのとある小さな田舎町に生まれた ジョージ (ジェー ムズ・スチュアート)は、子供のころ から故郷の町を飛び出し、世界を見たいという夢を持っていた。そのため全国地理協会の会員になり、めったに手に入らない地図を手に入れたりもしていたので ある。

  しかし常に人生は、必ずしも望んだようにはならないものである。人生の夢を妨げる数々の不幸がジョージを襲う。子供のとき、氷の張った沼に落ちた弟を助け るため自分も沼に入って片方の聴力を失い、カレッジを卒業する時には、貧しい人々に低金利で住宅資金を融資する小さな住宅資金ローンの会社を経営していた ジョージの父が突 然の発作で亡くなる。ジョージは大学進学をあきらめ、父の残した会社の社長として事業を受け継がなければならなくなる。そして弟が大学を卒業したら、弟 に会社を譲るつもりでいたのだが、その弟はさっさと大工場主の娘と結婚してしまい、弟に会社を譲ることも出来なくなってしまう。

 また幼馴染みのメアリー(ド ナ・リード)と結婚し、ニューヨークとバミューダへの新 婚旅行に出発しようとした正にその日、世界経済恐慌が襲い、それを切り抜けるために新婚旅行の旅費を使わざるを得なくなるのであった。こうした思いがけな い数々の事に翻弄されながらも、ジョージとメアリーは幸福な結婚生活を送り、4人の子供にも恵まれ、会 社の業績も堅調に延びてきたのである。

  しかし、またしても大きな不幸がジョージを襲うのである。叔父が会社の資金を銀行に預けに行って紛失してしまい、会社が倒産の危機に直面するのである。絶 望したジョージは雪 が降るクリスマスの町をさ迷い、橋の上から身を投げしようとするのであったが、そのとき一瞬早く、一人の老人がジョージの目の前で川に身を投げ、助けを求 めるのであった。この老人こそ、ジョージを助けるために神から使わされて天使(ただし、羽を持たない2級天使ということである)のクラレンスであった。

 ジョージは、我を忘れてクラレンスを助け、そしてこのクラレンスに「この世に生まれなければ良かった」と訴えるのである。すると羽を持たない天使のクラレンスは、ジョージの望みどおりの”彼が生まれて 来なかった世界”を見せてくれるのだが、そこでジョージが見たものは、・・・・・。

  この映画は、今でもアメリカではクリスマスにTVで必ず放映されるということである。「人のために誠実に生きる」ということは、例え自分の夢を犠牲にする ことに なるとしても、自分の周囲の人々に多くの幸せを与えることになるということなのだ、だから”人生は素晴らしいのだ!”ということを、この映画は高らかに示 してくれているようである。ジョージがクラレンスに会ってから、多くの人がジョージの危難に善意の手をさし伸ばしてくれる最後まで、自然に 涙が沸いてくるのである。そして、”人生を生きるということは、善かれ悪しかれ多くの人々に影響を与え、多くの人によって支えられているのだ!”というこ とを知ることになるのである。若い人にとっては、今後の行き方を考えることになるかもしれないし、若くはない人には、過ぎて去ってしまった自分の人生の意 味を苦い思いで振り返ることに なるのかもしれないようにも思われるのである。

  現代では、たぶんこのような映画が作られることはほとんどないであろう。しかし嘗てはこのような内容の映画が作られ、多くの人々に受け入れられた時代が確 かにあったのである。”昔を今になすことはできない”が、まだ人間が希望を持って語られた時代を、わずかな時間であっても映画の中で体験できるということ は、幸せなことかもしれないのである。最後に一言、メアリーを演じたドナ・リードの素晴らしいこと、”素晴らしき哉、ドナ・リード!”である。

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