ひまわり イタリア(1970)
監督
 ヴィットリオ・デシーカ

音楽
 ヘンリー・マンシーニ

出演
 ソフィア・ローレン
 マルチェロ・マストロヤンニ
 リュドミラ・サベーリエワ
 映画『ひまわり』は、戦争によって引き裂かれた男女を通して、戦争の悲惨さを描いた傑作中の傑作である。ジョバンナ(ソフィア・ローレン)とアントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)は、美しいナポリの海岸で出逢い、瞬く間に恋に落ちたが、この二人の上にも、当時のヨーロッパに広がっていた第二次世界大戦の暗雲が覆い始めていた。電気技師になるつもりでいたアントニオであったが、二日後にはアフリカ戦線に行かなければならなかったのである。

 そのため結婚すれば12日間の休暇がもらえるという理由で、二人は急遽、結婚式をあげ、新婚旅行に行く。出征まで残された日が少なくなってくると、考えた末にアントニオは精神病を装い、徴兵を逃れようとするのであったが、その嘘もばれて、懲役の代わりに激しいロシア戦線に送られてしまったのである。そして厳寒の雪の中、イタリア兵はソ連軍に次々と倒され、アントニオ自身も、凍てつく雪の中に倒れ、身動きもできなくなり死にかけたが、幸いにもロシアの少女マーシャ(リュドミラ・サベーリエワ)に助けられたのであった。

 イタリアに残されたジョバンナは、アントニオの母と夫の帰りを待って暮していたが、そこに夫の行方不明という通知が届いた。しかし、アントニオの死を信ずることができないジョバンナは、駅に帰ってくる復員兵の中にアントニオの姿を何年も待ち続けるのであった。そしてついに、最後にアントニオに会ったという復員兵から話を聞き、アントニオの消息を訪ねるためソ連へ出かける決意を固めるのだった。

 ソ連まで訪ねてきたジョバンナであったが、手がかりすら得られない日々が虚しく過ぎていく。しかしサッカー場で、今ではロシア人として暮らしているというイタリア人を見つけ、アントニオも生きていることを確信するのである。そしてついにジョバンナは、アントニオらしい人物の消息を得てある家を探し当てると、そこには洗濯物を片付けている一人のロシア女性を見出すのであった。この女性こそ、雪の中でアントニオを助け、今ではアントニオと結婚し、娘まで設けていたマーシャだったのである。

 マーシャはジョヴァンナを家に入れるのだが、ちょうど汽車が到着する時間であり、マーシャが駅に迎えに行くと、列車から降りてくる労働者達の中にアントニオの姿を見出したジョバンナは全てを察し、ホームを離れようとしている列車に飛び乗ってしまうのであった。

 それからどれだけの年月が流れたのだろうか。ジョヴァンナにとっては長い歳月だったであろうが、ミラノのマネキンの工場で元気に働くジョバンナの姿があった。そのジョヴァンナに、ある夜一通の電話がかかって来た。驚いたことにこの電話は、「会いたい」というアントニオからの電話であった。アントニオは、出国が難しいソ連からミラノにきていたのである。会いたいと必死に訴えるアントニオであったが、既に工員と結婚し、今では子供までいるジョバンナは、アントニオの訴えを拒否するしかなかったのである。

 傷心の思いでロシアに帰ろうとしたアントニオであったが、交通機関がストだったため、再度ジョヴァンナに電話し、二人は、ついに再会を果たすのであった。しかし長い間、異なる道を歩いてきてしまった二人である。どうして、再び同じ道を一緒に歩き始めることができるであろうか、できるはずが無いことを悟るアントニオとジョヴァンナであった。翌朝のミラノ駅には、列車に乗ったアントニオの姿と、そして涙とともに離れて見送るジョバンナの姿があったのである。

 映画『ひまわり』は、『自転車泥棒』などでも有名なイタリア映画界の巨匠ヴィットリオ・デシーカ監督による、反戦映画の名作中の名作である。この映画を見た人の多くは、画面いっぱいに咲き誇るひまわりと、ヘンリー・マンシーニの哀切きわまりない主題歌を忘れることはないであろう。そして何度でも、涙と共に最後の別れの場面を見ている自分を発見することになるであろう。

 アントニオから電話がかかってきて、再会することを決意したジョヴァンが、耳飾りをつけ鏡に向かうのだが、その耳飾は、幸せの絶頂だった新婚旅行のときにアントニオからプレゼントされたものなのである。戦争によって引き裂かれてしまったとはいえ、アントニオへのジョバンナの想いというものが消えていないことを我々は知ることになるのである。そして思うのである、「戦争さえ無かったなら」と。

 『ひまわり』は、ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニ、そしてリョドミラ・サベーリエワという三人の名優によって演じられた、戦争によって引き裂かれた悲劇の愛の物語である。それぞれによって演じられたジョヴァンナ、アントニオ、そしてマーシャ達が、今後どのような人生を送ることになるのだろうか。これらの三人が幸せな人生を紡いでくれることを祈らずにはいられなくなるのである。

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