争と平和 アメリカ(1956)
監督]
 キング・ビダー

[撮影]
 アーサー・ C・ミラー

[出演]
 オードリー・ヘップバーン
 ヘンリー・フォンダ
 メル・ファーラー
 映画『戦争と平和』は、言うまでもなく世界の文学史に燦然と輝く、ロシアの文豪トルストイの同名の長編小説を映画化した ものである。小 説『戦争と平和』は、登場人物だけで500人を越えるという大作であり、中学生のころに一応この本を読んだのだが、覚えにくいロシア人の名前のために、誰 が誰 か混乱したまま、単に字面を追っただけのような気がしている。従って、『戦争と平和』という文学作品が、こんな内容だったのかということは、この映画(た ぶん、リバイバル上映時)を見て分かったのであろう。

 映画の時代背景は、ナポレオンが活躍した頃である。時のロシアは、アレクサンドル一世の治世下にあってナポレオンと対立 していた。このロシアに対して、ナポレオンは、1812年に70万の大軍を率いてロシアに侵攻したが、映画『戦争と平和』は、このナポレオンによるロシア 戦役によって翻弄される三人のロシア貴族、ピエール伯爵、アンドレイ・ボルコンスキィ公爵、そしてナターシャ・ロストワ(ロストフ伯爵家の令嬢)の運命を 中心として描いた、3時間30分に近い超大作である。ピエール伯爵を名優ヘン リー・フォンダ、アンドレイ公爵をメル・ファーラー、そしてナターシャをオー ドリー・ヘップバーンが演じている。

 この映画の魅力の一つは、何といってもナターシャを演じたオードリー・ヘップバーンであろう。この映画に刺激されてとい うか、たぶん先を越された旧ソ連が国家の威信を賭けて1965〜7年に製作した『戦争と平和』において、後年イタリア映画『ひまわり』において好演した リュ ドミラ・サベーリエワによっても、魅力的なナターシャが演じられている。しかしヘップバーンが天性持っている天真爛漫さというものが、小説から私的に想像 していたナターシャと同じだったように思われるのである。

 旧ソ連版の『戦争と平和』は4部作の超大作として、原作にかなり忠実に作られており、またナポレオン軍とロシア軍の戦い (特にボロジノの戦い)は、実際の戦争を撮影したのかと思えるほどのものであった。一方本作品は、ナターシャが、アンドレイ公爵(夫君でもあったメル・ ファーラーが演じた)と愛し合いながら、あるプレイボーイと駆け落ち寸前までに陥ったりしながらも、遂にピエール伯爵との真実の愛を知るまでの物語として 描 かれ、オードリーのための映画とさえ言えるものとなっており、それゆえにオードリーファンの私にとっては非常に魅力ある映画なのである。

 いずれにしろ若かった頃には、素直に感動したことは間違いないのであり、小説『戦争と平和』をいつの日かもう一度読み直 し、オードリー・ヘップバーンの『戦争と平和』と、旧ソ連版の『戦争と平和』を映画館の大スクリーンで見直してみたいものである。

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