監督
小津安二郎
出演
佐分利信
木暮実千代
淡島千景
津島恵子
鶴田浩二
笠智衆 |
この映画『お茶漬けの味』は、『東京物語』の前年に製作されている。『東京物語』では、家族の問題を扱っているが、この映画では、地方出身の有能ではあるが素朴な夫佐竹茂吉(佐分利信)と、上流階級出身のためこんな夫にうんざりしている妻妙子(木暮実千代さん)という一組の夫婦を描いている。
佐竹茂吉と妙子が見合い結婚してからもう何年になるのか明確には説明されないが、茂吉はある企業の機械部の部長なので、それ相応の年齢であろう。二人には子供がないが、お手伝いを雇っていることができるのほどのゆとりのある生活をしている。しかしいくら部長とはいえ、一般的なサラリーマンの給与でお手伝いを雇えるはずはないだろうから、たぶん妙子の実家からの相当な支援があるのであろう。こんな妙子は、田舎出身の茂吉とは様々な面で合わず、妙子は学生時代の友達や姪の節子(津島恵子さん)などと遊び歩いていた。
そんなとき、節子が歌舞伎座で見合をしたのだが、節子は見合いをほっぽらかして逃げ出してきてしまったのである。そしてこんな節子を妙子が叱った時、茂吉は次のように言ってしまうのである。
「…嫌だってものを無理に結婚させたってー 君と僕見たいのな夫婦がもう一組出来るだけじゃないか」と。
このことがあってからというもの二人は口もきかずにいたのだが、ある日の夕食のとき、茂吉がうっかりご飯に味噌汁をかけて食べてしまう。そのような食べ方が以前から嫌いな妙子と茂吉は口論となり、ついに妙子は神戸の友達の所へ遊びに行ってしまうのであった。そしてその留守中に、飛行機の切符の都合で、急に茂吉のウルグアイへの海外出張が決まってしまうのである。
茂吉は妙子宛に電報を打つが、妙子が帰ってこないまま茂吉は海外出張に出発してしまう。茂吉が発った後で妙子は家に帰ってきたが、当然のことに茂吉は既に家にはおらず、妙子は一人もの想いに沈むのであった。しかしその夜更けに、思いがけなく茂吉が帰ってきた。飛機行のエンジンの調子が悪くて途中から引き返してきたのであった
腹が減ったという茂吉がお茶漬けを食べたいというので、二人は一緒にお茶漬けを準備するのだが、妙子にとっては初めて茂吉のためにする食事の用意だったのである。そして、二人でお茶漬けを食べながら、妙子は夫婦というものの在り様を初めて理解するのだった。
以上が、この映画のおおよそのストーリである。この映画の一種のクライマックスとでもいえるところは、最後のお茶漬けを茂吉と妙子が一緒に食べる場面であろう。茂吉がいう。「お茶漬けだよ お茶漬けの味なんだ 夫婦は このお茶漬けの味なんだよ」と。そして二人で微笑み合ってお茶漬けを食べるのだが、このシーンによって我々観客は救われたような気持ちになるのである。そして、”そうなんだ、夫婦はこうでなければならないのだ。お茶漬けの味でなければならないのだ”と思ってしまうのである。
そして小津監督は、節子と、もしかしたら節子と結婚することになるかも知れない鶴田浩二演ずる岡田が話をしながら道を歩いている場面を次に持ってくる。これは、もし節子と岡田が結婚したらどんな夫婦になるのだろうかという想像を我々観客に問いかけているようでもある。
この映画で、小津映画では欠かすことができない笠智衆が、軍隊時代の茂吉の元部下でパチンコ店を経営している男を演じている。茂吉が入ったパチンコ店で二人は再会するのだが、このとき二人が軍隊時代を懐かしんで話をする。この笠智衆演ずる男はしきりに軍隊時代、特にシンガポール時代を懐かしむのであるが、このシーンからは決して”軍隊がひどかった!”というようなメッセージは伝わってこないのである。小津監督も一兵士として実際に中国戦線で転戦しているのであり、そのような経験を踏まえてのこの映画の演出であることを考えると、後年いかにも日本の軍隊が非人間的であったかのように語られることに、正直なところ疑問を感じてしまうのである。
ところで木暮実千代さんは、その妖艶な美貌に魅惑されてしまうが、実は大変な賢婦人であったということである。この映画では家事など全くしたことがないような上流階級の婦人を演じているが、最後のお茶漬けを準備するシーンで沢庵を切るときの見事な包丁捌きからも、実は家事にも堪能であったことがよくわかるような気がするのである。私的に言えば、もう少しぎこちない包丁捌きをするように演出したほうがよかったのではないかとさえ思ってしまうほどなのである。
いずれにしろこの映画は、戦後のアメリカ的なるものによって影響を受け初めていた日本人の夫婦像について、小津監督が、当時の日本人に再考を促すような作品だったのではないかと考えるのは、あながち考えすぎではないように思えるのである。
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