日本誕生 東宝(昭和34年:1959)
監督
 稲垣浩

特撮監督
 円谷英二

撮影
 山田一夫

音楽
 伊福部昭

出演
 三船敏郎
 中村鴈治郎
 志村喬
 鶴田浩二
 原節子
 田中絹代
 司葉子
 香川京子
 上原美佐
 柳家金語楼
 乙羽信子
 加東大介
 小林桂樹
 榎本健一
 有島一郎
 三木のり平
 沢村いき雄
 朝汐太郎
 東野英治郎
 田崎潤
 平田昭彦
 この映画『日本誕生』は、東宝が映画製作1000本を記念して製作した3時間を越える超大作であり、『古事記』および『日 本書紀』に描かれた日本史上最大の英雄日本武尊(ヤマトタケル)の物語を中心として描いている。

 映画は、日本の国産み神話、即ちイザナギノミコト、イザナミノミコトによる有名な国造りの神話として、以下のような語りから始まる。

 「この世の始めのことじゃ。天の一番高いところに、高天原という国があってな・・・・ まだ天も地も固まりきらず、この地上はただ油を浮かしたように、トーロトロとくらげのように浮かんでいた。・・・・」

 このような状態において、イザナギ、イザナミの両ミコトによって日本という国(別名、大八州オオヤシマ、多くの島々からなる国)が作られたのであるが、それから時代が下って第12代景行天皇の御世となる。景行天皇(中村鴈治郎)には、大碓命(オオウスノミコト)と小碓命(オウスノミコト、後のヤマトタケル)という兄弟がいたが、兄大碓命が、父景行天皇に仕える妃を奪ったために、怒った小碓命は大碓命を懲らしめるため危うく殺しかけてしまう。しかし、そのことが父景行天皇に誤解を与えることとなり、天皇から疎まれ、さらに大伴氏の策略によって、西の国の熊襲建兄弟の討伐を命じられる。こうして、オウスノミコト、後の日本武尊の悲劇的な苦難の旅が始まるのである。

 熊襲征伐に先立って、日本武尊(三船敏郎)はまず叔母の倭姫(ヤマトヒメ)(田中絹代さん)のいる伊勢神宮に赴き、ここで倭姫が身に着けていた衣装を授けられて、熊襲討伐に向かうのである。熊襲は、予想以上に手ごわい相手であったが、倭姫から貰った衣装を着て酒宴に紛れ込んで熊曽兄弟(兄を志村喬)を討ち果すのだが、このとき、熊曽兄弟の弟(鶴田浩二)から、”日本武尊”と名乗るようにと懇願されるのである。

 こうして、日本武尊は都へ凱旋するのだが、休むまもなく東国征伐を命じられてしまう。日本武尊は、再び叔母の倭姫を訪ね、須佐之男命が八岐の大蛇を退治したとき、その尾から出て来たと伝えられる天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)と、身に危険が迫った時に開けるように言われた袋を与えられて、東国へと向かうのである。そして、宮簀媛(ミヤズヒメ)との恋もあった尾張の国を始め多くの国を従え、相模国にまで辿り着いたのであった。ここの国造久呂比古は、日本武尊を騙して猪狩りに連れ出し、四方か ら火を放っ た。しかし日本武尊は叢雲剣で草をなぎ払い、もしもの時に開けるように言われていた袋の中の火打石を用いて難を避けることができたのである。そしてさらに東征の旅を続けようとるのだが、父景 行天皇を疑い、怨む心を抱いたまま東国への征討を続けることの惨めさから大和へ引返すことを決意するのであった。

 こうして、大和の国近くまで戻った日本武尊であったが、大伴氏の軍勢に迎え撃たれ、討たれてしまうのである。すると、日本武尊の魂は一羽の白鳥となり、山上を飛び巡ると、山は忽ち噴煙を上げて爆発し、溶岩が流れだし、地は裂け、大伴氏の兵達を飲み込み、湖から溢れた水が、兵士達を襲うのであった。そして白鳥は、伊勢の倭姫の館の上を飛び回ると、遥か高天原に向い、飛び去るのであった。

 以上がこの映画の極めて大雑把なストーリである。古事記や日本書紀にはそれほど詳しくないが、ほぼこれらの記紀の伝承を基本とした映画となっているようである。戦後教育を受けたものとしては、残念ながら学校の歴史教科書では、日本神話をほとんど学んではいなかったのだが、幸いにも小さい頃に神話の絵本や簡単な本を読んでいて、この映画で描かれた内容は、断片的に知っていた。そのため、この映画を始めて映画館で見たときには、”あー、あの話か”と思ったことを記憶している。

 映画では、日本武尊の話のみではなく、神話のアマテラスの天の岩戸に隠れる話や、スサノオのミコトのヤマタノ大蛇退治の話が、円谷監督の特撮映画によってスクリーン上に描かれている。勿論、現在のCG等を使用した映像に較べるべくもないが、映画館で見た当時は、そのスペクタクルに驚き圧倒されるとともに、日 本武尊の悲劇的な運命に子供心に哀れを感じたのである。

 ところでこの映画は、東宝のオールスター映画といってよく、東宝映画を代表する多くの女優さんが出演している。天照大御神(アマテラスオオミカミ)を演ずる原節子さん、三船敏郎演ずる日本武尊に想いを寄せる、弟橘媛(オトタチバナヒメ)を演ずる司葉子さん、宮簀媛(ミヤズヒ メ)を演ずる香川京子さん、そしてスサノオノミコト(三船敏郎の二役)によりヤマタノオロチから助けられる櫛名田比売(クシナダヒメ)を演ずる上原美佐さ ん(あの『隠し砦の三悪人』の雪姫を演じて いる)などである。これらの女優さんたちは、現在の女優さんにはない、なんともいえない、日本の、大人の女性としての魅力が満ち溢れているように思えるのは、私ばかりではないであろう。

 この映画では、記紀に語られている様々な日本の神話の幾つかを映像としてみることができる。その代表的なものの一つが、天照大御神の天の岩戸隠れである。このときの八百万の神が集まって知恵を絞り、何とか天照大御神を岩屋から出すのであるが、このシーンでは懐かしい俳優さんたち(ほとんどの方が鬼籍に入っている)が多数出演している。例えば、柳家金語楼、乙羽信子、加東大介、小林桂樹、榎本健一、有島一郎、三木のり平、沢村いき雄などである。また第46代横綱の朝汐太郎も、天手力雄神(アメノタヂカラオのカミ)として出演している。

 この映画の感想を書いているのは、平成二十四年正月である。昨年、即ち平成二十三年、日本は1000年に一度と言われる大地震、大津波、そして原発事故という未曾有の国難に直面した。そこから、日本は再度立ち上がらなければならないが、そのためにも日本という国家が、どのようにして誕生し、どのような歴史を紡いできたのかということに、この映画を契機として想いをめぐらせることも無駄ではないような気がするのである。しかし、想いを巡らせればするほど、現今の日本は、この国を懸命に作り、育み、守ってきた先人達に顔向けできないような気がしてしまうのである。

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