瞼の母 東映(昭和37年:1962)
監督
 加藤泰

音楽
 木下忠司

出演
 中村錦之助
 木暮実千代
 夏川静江
 浪花千栄子
 沢村貞子
 大川恵子
 この映画『瞼の母』は、よく知られているようにヤクザの番場の忠太郎が幼い頃に生き別れた母親を捜し求め、やっとめぐりあうが、母を慕う思いが叶わず再びやくざ渡世の旅にでるという長谷川伸の傑作である。

 映画のタイトルバックに流れる歌は、次のようなものである。なお、(?)で示したところは少し聞き取りにかったところで、誤っているかもしれないが、美しい旋律であり、この映画では多くの場面でこの旋律(のみ?)が使われている。

 いつも変わらぬ 母の面影
 若いささやきの(?) 優しい笑顔
 瞼を閉じて 耳を澄ませば
 私を呼んでる 母の呼ぶ声
 あーあー 思い出の
 白い花びらが そーと(?)散ってる
 里の我が家


 映画は、笹川繁蔵と飯岡助五郎との抗争により、忠太郎が助五郎一家から追われるということが背景にあるが、当然のことながらメインは、忠太郎が生き別れた母親を捜し求めることである。忠太郎が母親(木暮美千代さん)にめぐり合うまでに、弟分の半次郎(松方弘樹)の夏川静江さん演ずる母親、浪花千栄子さん演ずる盲目の三味線弾き、沢村貞子さん演ずる夜鷹、等に出会うのであるが、これらの出会いは、中村錦之助とこれらの名女優・大女優さん達との火花散る演技の対決でもある。

 それぞれのシーンが加藤泰監督独自の長廻しとローアングルによる見ごたえあるものとなっており、特に、クライマックスの木暮美千代さん演ずる母親との出会いは、邦画の中でも特筆すべき名場面であり、最後の終わりの文字がでるまで、いや終わってからも涙が溢れてくるのを禁じえないほどである。これらのシーンを見るたびに、現在の役者さん達にこれほどの演技を期待できるようには思えないのである。この映画は、その感動を伝えることが難しいほどの必見の名作である。


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