カサブランカ アメリカ(1942)
[監督]
マイケル・カーティス  

[音楽]
マックス・タイナー

[出演]
ハンフリー・ボガード
イングリット・バーグマン
 映画『カサブランカ』は、第二次世界大戦の真っ只中の1942年に公開された作品である。舞台は、題名どおりの当時の仏領モロッコのカサブランカである。アカデミー作品賞、監督賞、脚本賞の主要な三部門を受賞している名作であり、今もってファンから高い評価を得ている作品である。最近はCGや3Dなどの技術を駆使した特殊効果だけの映画が多くなったような気がするが、この映画は今から70年前の映画であるにもかかわらず、映画の王道を極めた作品である。

 日本映画の父といわれた牧野省三が”映画で重要なのは、1 スジ、2 ヌケ、3 ドウサ”であると言っていたことはよく知られた話である。私的にというか、一般的だろうと思うが、これは以下のようなことであろう。

 スジ  ; 筋すなわちストーリーの面白さであり、よい脚本。
 ヌケ  ; 画面がきれいにぬけていること。「きれいにぬけている」とは、ピントがあってきれいに撮れているというようなことではなく、構図や、光の使い方や色の使い方とかの優れた撮影技術。
 ドウサ ; 役者の優れた演技。

 本サイトで取り上げている作品は、これらの三つの要素が優れていると私的に感じた作品を取り上げているつもりであり、この『カサブランカ』は、これらの三点において特筆すべき映画である。 

 以下に、映画冒頭のナレーション(日本語の字幕から)を記しておく。

 第二次世界大戦下、 独軍の侵略から逃れるため人々は米国を目指した。しかし、経由地リスボンまでが棘の道であった。そこで亡命者達は別のルートを選択した。パリからマルセイユへ、地中海を経てオランへ、そこから列車もしくは徒歩で、仏領モロッコのカサブランカへ、金かコネのある運のいいものは、リスボンへの出国ビザを手にすることができた。しかし、それ以外のものはカサブランカで待つしかなかった。

 このカサブランカでアメリカ人リック(ハンフリー・ボガード)は酒場を経営していた。あるとき、ドイツの政府関係者がオラン発の列車内で殺されドイツ軍発行の通行許可証が盗まれ、その被疑者がカサブランカに潜伏したらしいということで、それを追って独軍の将校シュトラッサアーが到着する。通行許可証を盗んだのはウガーテという男でリックにその保管を頼むのだが、その直後、フランス側の警察署長ルノーによってウガーテは逮捕されてしまう。

 そのあとへ、反ナチ地下運動で有名なヴィクター・ラズロと妻のイルザ・ランド(イングリッド・バーグマン)が、アメリカに逃れるためウガーテの通行許可証を求めて現れるのだが、イルザとリックは嘗てパリで愛し合っていた仲なのであった。そしてイルザ達が帰り、閉店した店で一人酒を傾け、嘗てのパリの二人の思い出を回想するリックの姿があった。独軍がパリに迫ったとき、二人はパリを離れることを決意して駅で落ち合うことにしたのだが、イルザは”もう会えない”という手紙をピアニストのサムに託して、現れなかったのである。苦い思い出に浸り、したたかに酔ったリックのところにイルザが現れるのだが、リックには彼女のパリでの仕打ちをなじるのことしかできないのであった。

 リックが通行証を持っているらしいことを知ったラズロは、リックに頼むのだが、リックはこれを断るのである。その夜イルザは再びリックを訪れ、”パリで約束の駅に姿を現さなかったのは、既に死んだと思っていた夫のラズロが生きていることが分かり、しかも病気で弱っていることを知ったためである”と真実を話すのだった。そしてイルザは今でもリックを愛していると打ち明け、3人にとって一番よい方法を考えてくれとリックに頼むのである。
 こうしてこの映画は、有名なクライマックスへと突き進んでいくのである。伝えられた話としては、イルザを演じたイングリッド・バーグマンにも、撮影が終了するまでどのような結末になるかがが分からなかったということである。飛び立つ飛行機を見送った後、リックが警察署長に言う言葉が、”Louis, Ithink thisis the beginning ofabeautiful friendship”(ルイ、これが我々の美しい友情の始まりだな)である。

 この映画は他にも数々の名セリフで彩られていて、ネット上にも多くの方がまとめてくれたり、考察してくれている。しかし、どのセリフもまず実際に映画を見て堪能し、自分なりの解釈をしたいものである。いずれにしろ、この映画を見れば、”スジ、ヌケ、ドウサ”が映画にとってどれほど重要かがわかるであろう。この映画は戦争遂行のプロパガンダとして作られたということであるが、サムが歌う名曲「時のすぎゆくままに(As Time Goes By)」を聴きながら、イングリット・バーグマンの美しさに感嘆し、ハンフリー・ボガードのダンディズムを感じるだけでも、この映画を見る価値はあろうというものである。なお、カサブランカはアメリカ映画協会(AFI)が選ぶ、情熱的な映画ベスト100(2002年)の1位であった。

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