荒野の決闘 20世紀フォックス(1946)
監督
 ジョン・フォード

出演
 ヘンリー・フォンダ
 ヴィクター・マチュア  
 キャシー・ダウンズ  
 ウォルター・ブレナン
 この映画は、ワイアット・アープ(ヘンリー・フォンダ)兄弟とクラントン一家とのOK牧場における決闘を、ジョン・フォード監督が詩情豊かに描いた西部劇映画の傑作中の傑作である。この実際に起こった事件をもとに、例えばジョン・スタージェス監督の「OK牧場の決闘」やジョージ・P・コスマトス監督の「トゥームストーン」が作られているが、私的にはこのジョン・フォード監督が作った本作がベストである。

 この映画は、日本で”雪山賛歌”として聞きなれた 曲を背景に始まるだが、画面いっぱいに牛の大群が現れると、それだけで西部にいるような気分に満たされてしまう。カウボーイのワイヤット・アープ4兄弟が、数千頭の牛をカリフォルニアに売りに向かっているのである。その途中のトゥームストーンという町の近くまできたところで、クラントン父子 に出会う。クラントン(ウォルター・ブレナン)は、アープに牛を買うことを申し出るが、アープはそれを断ってしまう。

 ワイアット達はその夜トゥームストーンの近くで夜営し、末弟のジェームスを残して町に行くが、戻ってみるとジェームスが何者かに殺され、牛もすべて盗まれてしまっていた。そのためワイヤットはトゥームストーンの町で保安官となり、弟殺しの犯人を探すことにする。結局クラントン一家の息子の一人が、ジェームスが許婚のために買った銀のペンダントを持っていたことから犯人とわかり、OK牧場でのクラントン一家との決闘になっていくというのが、この映画の大よそのストーリである。しかし、この中でワイアット・アープとドク・ホリディ(ヴィクター・マチュア )との友情や、ワイアット・アープのクレメンタイン(キャシー・ダウンズ)に対する淡い思いなどが描かれる。

 それにしてもこうした映画の古典といわれる作品をみると、いまさらながらその表現の素晴らしさ、卓越した感性に関心してしまうのである。冒頭、牛の大群が出現し、その牛の群れをクラントン一家が見ているシーンからして、これから何か起こることを予感させるし、 ドク・ホリディとワイアット・アープが初めて酒場で出会うシーンの会話もすばらしい。また、ドク・ホリディに会うために、クレメンタインがトゥームストーンの町に駅馬車で現れたときの微笑をさそうワイアットの振る舞い、新しく教会が作られたときに、クレメンタインとワイアットが教会に連れ立っていってダンスを踊るまでのシーンの楽しさといい、ジョン・フォード監督の演出はなんといったらいいのだろうか。また、ドク・ホリディは自分の結核という病故に、クレメンタインの許を離れて西部に流れ荒れた生活をしているのだが、その哀感が様々な場面でうまく表現されてもいる。

 OK牧場での決闘では、ドクが撃たれて亡くなる。ワイアット・アープはここで起こったことを父親に報告するために、学校の先生になってしばらくトゥームストーンの町に残ることにしたクレメンタインに別れを告げる。このときワイアットは馬に乗って、「あなたの名前が好きです、クレメンタイン」(Ma'am, I shure like that name, Clementine)と言って旅立つのだが、このセンス、この西部の荒野の抜けるような青い空(モノクロなので青いわけではないが、青さを感じてしまう)と白い雲の下に広がる 広大な西部の詩情溢れる風景に、ただただ脱帽である


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