鉄道員 イタリア(1956)
監督
 ピエトロ・ジェルミ  

音楽
 カルロ・ルスティケリ

出演
 ピエトロ・ジェルミ
 ルイザ・デラ・ノーチェ
 エドアルド・ネヴォラ
 シルヴァ・コシナ
 『鉄道員』は、イタリア国営鉄道の特急列車を運転していることを誇りとしている初老の鉄道員アンドレア・マルコッチ(ピエトロ・ジェルミ)の家族の崩壊とそして再生を、あるクリスマスから翌年のクリスマスまでのほぼ一年の出来事として、名匠ピエトロ・ジェルミが、末っ子サンドリーノ(エドアルド・ネヴォラ)の視点から描いた感動の名作である。

 アンドレアは、いわゆる仕事一途な父親であり、それゆえ酒好きで、仕事仲間とは酒場でギターを弾きながら陽気に歌うが、家庭では横暴といってもよい父親であった。そのため、長男マルチェロは職にもつかず不良仲間と付き合い、長女ジュリア(シルヴァ・コシナ)は付き合っていたレナードとの間で妊娠してしまい、アンドレアに無理やり結婚させられていた。こんな家庭であったが、アンドレアの妻サーラ(ルイザ・デラ・ノーチェ)によって辛うじて家庭が維持されており、末っ子のサンドリーノにとっては、特急電車を運転している愛する父アンドレアは英雄であり、誇りでもあった。

 映画は、あどけなさが残るサンドリーノが小走りに人ごみの中を歩いていく印象的なシーンから始まる。この日はクリスマス・イブであり、イブを過ごすために家族が集まっていて、長距離特急を運転して駅に戻るアンドレアを迎えに行くところなのである。

 サンドリーノが迎えに来てくれたことに驚き喜ぶアンドレアは、一緒に家族が住むアパートへの道を帰るのであるが、その途中で仕事仲間が集ういつもの酒場の誘惑に抗しきれずに立寄ってしまう。軽く飲んで帰るつもりであったが、結局はしたたかに酔ったアンドレアがアパートに帰るとそこには誰もおらず、アンドレアは悪態をつきながらが寝てしまう。しかしアンドレアを待っている間にジュリアが産気づいたが、流産してしまっていたのである。

 ”酒場によらずに、早く家に帰っていれば!”と、アンドレアにとって悔やむ日々が続く中で勤務を続けていたとき、カーブで見通しがきかない場所ではあったといえ自殺者を轢いてしまい、さらにその直後、これが原因で赤信号を見落とし、危うく列車同士が正面衝突する寸前のミスを起こしてしまう。このミスにより、アンドレアは特急の運転手から降格され、給料も減額されてしまう。

 そして家族の状態はさらに悪くなっていく。長女ジュリアとレナードとの関係は冷えてしまい、ジュリアには以前に付き合っていたらしい男の影が付きまとうようになり、長男マルチェロはさらに悪友たちとの関係を深めていくのである。こんな時、決定的なことが起きる。ジュリアが男と車にいるところを目撃したことをサンドリーノから聞いたアンドレアがジュリアを問い詰めると、逆にジュリアはアンドレアに対する積年の鬱憤を叩きつけるのであった。そして、その場に戻ってきたマルチェロとも喧嘩となり、アンドレアは「失せろ 二人ともだ!」と言ってしまうのである。そして結局、マルチェロはアパートを去り、ジュリアはレナードと別れ、ランドリーで働きながら一人で生活をするのであった。

 アンドレアにさらに追い討ちをかけるように、イタリア国鉄全線でストが決行される。自暴自棄となっていたアンドレアは、長年の友人リベラーニが止めるのも聞かずスト破りを行ってしまう。ストは成功し労働者の勝利に終わるが、アンドレアは”スト破り”の烙印を押されてしまい、酒場で共に歌った仲間からも疎んぜられてしまうのである。そして、アンドレアは家に帰らず、職場にも姿を見せなくなってしまったのである。

 サンドリーノは、父アンドレアをリベラーニと捜すのだが、ある店で女といるところを見てしまう。サンドリーノは、子供心に良い成績をとれば父と話ができると思い、必死に勉強して進級を勝ち取ると、アンドレアの所を再び訪ねて行くのである。そしてその夜、昔の仲間が集う酒場のドアが開くと、そこにはアンドレアとサンドリーノの姿があったのである。突然現れた二人の姿に驚き、一瞬静かになる店内であったが仲間たちはアンドレアを昔のように暖かく迎え、そして以前のようにアンドレアがギターを弾き、皆で歌う変わらぬ光景が再現されるのだが、その中でアンドレアは倒れてしまう。様々なな心労と絶え間ない酒がアンドレアの体を蝕んでいたのである。

 アンドレアが倒れて3ヶ月ほどが過ぎ、アンドレアの健康も良くなってきたクリスマス・イブの日、アンドレアのアパートに、リベラーニに伴われた長男マルチェロの姿があり、そして多くの仲間が後に続き、久しぶりに笑いと喜びに溢れるにぎやかなパーティがアンドレアのアパートで繰り広げられた。そして、さらに嬉しいことにレナードとよりを戻したジュリアから電話があり、ミサの後でアパートに来るというのである。そしてパーティが終わり、仲間たちも帰り、ジュリアを待ってベッドに横になったアンドレアが奏でていたギターの音が、静かに消えていったのである。
 それから幾日かが過ぎたある朝、職場に急ぐマルチェロと学校に急ぐサンドリーノ、そして彼らを見送る寂しげなサーラの姿が見られるのであった。

 この映画『鉄道員』は、第二次世界大戦後の鉄道で働く一般庶民の生活の哀歓を詩情豊かに描写したイタリア映画の傑作であるばかりでなく、世界の映画史の中でも燦然と輝く映画であり、各国の映画祭で賞賛を博した必見の作品である。

 アンドレアのような暴君ともいえる父親、サーラのような心優しく聡明な母親、ジュリアやマルチェロのような父親に反抗する子供たち、そしてサンドリーノ(名演である)のあどけない笑顔。こうしたものは、多かれ少なかれ、どこの家族にもあるような気がしてしまうのだ。

 映画の日本公開が1958年なので、見たのはたぶん、どこかの名画座のような小さな映画館であろうが、実はいつの頃か判然と思い出せないのである。気がついていたら、哀愁を帯びたカルロ・ルスティケリの鉄道員のテーマ音楽が既に自分の中にあったのであり、最後の場面で、テーマ音楽を背景に始業時刻を告げるようなサイレンの音と、「急げ、マルコッチ」というサンドリーノの友人の声が聞こえてくるようになっていたのである。

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